INTERVIEW

【インタビュー】「ビジネスアイデアのルーツは意外なところに」オークファン代表 武永修一氏

国内最大級のネットオークションやショッピングサイトの価格比較・相場検索サイト「aucfan.com(オークファンドットコム)」をみなさんは使ったことがあるだろうか。「モノを安く買い、高く売る」ためのあらゆる情報を提供しているサイトだ。
今回は株式会社オークファン 代表取締役の武永修一氏にお話を伺ってきた。
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aucfan.com」は、インターネットのオークションやショッピングサイトに出品されている価格情報の比較・検索・分析などが可能なサービスだ。現在保有している商品及び価格情報のデータは約200億件以上に及ぶという。
名称からするとオークションの情報のみを扱っているように思えるかもしれないが、Amazonや楽天、ヤフー!ショッピングなどの新品や中古品の価格情報も提供している。
訪問者数は月間1,000万人を超えており、ユーザーの多くが売り手で、転売者やネットショップ運営者が競合価格の調査や販売価格の値決めをするために利用している。
オークファンの主な収益源は「aucfan.com」などのサービス課金収入。これが全体の6割を占めており、この事業だけで黒字化ができているそうだ。
「aucfan.com」は、無料で現在の価格情報を比較することなどができるが、月額513円(税込)の「プレミアム会員」に登録することで、過去10年間の落札相場や、売れている出品者の商品一覧など、オークションの入札や出品に役立つ情報や機能を利用することができる。
さらに、プロ向けの相場検索・データ分析ツール「オークファンプロ」を月額3,066円(税込)で提供している。「どの商品を」「いくらで」「どのカテゴリで」出品すれば最も効率的に売れるかがわかるなど、オークファンが保有している10年分のデータを最大限に活用できるサービスだ。
この他に、ネット広告収入やマーケティング支援などで収益を得ている。

ユーザーを買い手から売り手へと成長させる仕組み

オークファンは、買い手から売り手にステップアップする独自の仕組みを構築している。買うだけだったユーザーが、売り手となり、売り手から本格的に事業としてやっていくまでのステップアップを、オークファンが提供するサービスで支援していくというものだ。
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しかし、買い手が売り手に回るのにはそれなりの敷居があるのも事実。武永氏はどのように考えているのだろうか。

―― 売るっていう行為は敷居が高いと感じる方も多いと思いますが、まだ売ったことない人たちに特別なアプローチはされているんでしょうか。

武永:たぶん我々のサイトが特別だと思いますね。
「開運!なんでも鑑定団」っていうテレビ番組をご覧になったことありますか?
あの番組は普通の壷とか、おじいちゃんからもらった掛け軸とか、どこの家にでも転がっていそうな物を出したら、100万円以上の価値があったりしますよね。
まずは価値の把握がすごく重要だと思っています。
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不動産とか車って普通の人でも売ったり買ったりしますよね。あれはやっぱり金額がでかいから、「車いらないから捨ててきた」って人はいないわけですよね。
お金持ちなら、誰かにあげてきたという人もいますけど、普通の人は次に売ることを考えて車を買いますよね。
家もそうですよね。場合によっては3千万で買った家が、5千万で売れることだってありますし。
でも、普通の商品になった瞬間に、みんなその辺がアバウトになって、捨ててしまったり、ずっとタンスに眠っていたりってことがあるんですけど、そこに対して我々が価値を与えることができればと思っています。
「あなたの家で眠っているゴルフクラブがいま5万円で売れるんですよ」ということがわかれば、それを換金して新しいものを買いたいと思えば、それって経済活動にもなりますよね。
その気づきを与えるってことが凄く重要だと思っているんですよ。
やっぱり中古の価格がわかることがすごく重要で、オークファンは一つのサイトだけでなく、いろんなサイトの平均値がわかるので、それによって「まず資産価値を認識して、それをどう処分するのかを考えましょう」っていうのが我々の狙いなので、そうなると我々のサイトの価値が特別なんじゃないかと思いますね。

レンタル感覚で物事を考えればいい

―― 例えば、売ったほうがいいカテゴリなど、商品の傾向はあるんでしょうか。

武永:正直なところ全部売った方がいいと思います。(笑)
長らく愛用するもの以外は、売った方がいいですね。
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機会損失を起こしているって概念だと思っていて、例えば、エルメスのバーキンを100万円で買ったとしますよね。それを10年間保有した場合、1年間で10万じゃないですか。
それを、年に4回大事な日に使った場合に、1回あたりいくらになるかを考えると、ざっくりと2万5千円になりますよね。
使うかも使うかもって思いながら、5年間使わずに、ずーっとタンスの肥やしになっていたら、結局価値が全然あがらないわけですよね。価値がどんどん劣化していくわけですよ。
汚れてきたりとか、虫に喰われたりだとか、ほこりが溜まったりもしますよね。だったら潔くよく売ってしまって、欲しくなったらまた買えばいいという話しなんです。
必要な時だけ使えるようなレンタルみたいな感じにしていけば、極力自分自身が抱えるリスクって少なくなるんですよ。
私は100万円超える時計を4本ぐらい持っていますけど、買ってからいらなくなったらすぐ売りますからね。そうすると9割ぐらいで売れるんですよ。
100万円でも90万円返ってきたら、また欲しくなった時に安くなっていたりするので、次に70万円で買えば、逆に得した感じになるので、レンタル感覚で物事を考えるといいですよね。
日本人は、昔はなんでもかんでも所有して、全部倉庫に入れるって話しだったんですけど、少子化になっていったら、そんなに広い家に住めなくなりますよね。
そうすると、1Lとか3LDKぐらいのマンションで、がっつり物をたくさん持つってことは難しいので、どんどん循環させていくしかないと思うんですよね。
―― 私もつい物をずるずると持ってしまって、価値がなくなったところで、売りたくなるっていうことがあったので、考えを改めなきゃいけませんね。(笑)
やっぱり、価値のあるうちに売って、欲しいものを新たに買うっていう方が良いんですかね。
武永:そうですねぇ。
所有欲と金銭のバランスかもしれないですね。中にはお金持ちの女の人が、靴ばっかり100足ぐらい持っていて、絶対履かない靴とか持っていたりするじゃないですか。
あれはたぶん本人がすごく嬉しいので、それを見ると落ち着くとか、それに囲まれていると幸せっていう人もいるので、それはそれで趣味の範囲として持っていてもいいと思うんですけど、普通の人ってモデルはどんどんチェンジするし、1年前だったらルブタンの靴が4万円で売れたのに、いまは1万円になっていたら、毎月3千円の損を出していたのと一緒になるわけですよね。
もし1年前に4万円で売っていたら、その4万円を原資に新しい靴が買えたかもしれないですけど、いま1万円で売っても別にご飯代にしかならないと考えると、そういうことに気づいている人と気づいていない人とでは、家計の収支がぜんぜん変わってきますよね。

―― 買ったものは売るなら1年以内に売った方がいいとか、そういった傾向はあるんでしょうか?

武永:ゲームとか、デジタル機器っていうのは、すぐ値段が変わってしまうので、買ってあまり使わなかったらすぐに売った方がいいですね。
僕もルンバのような製品を10万円ぐらいで買ったんですけど、使ってみたら異常に音がうるさかったり、猫が上に乗っちゃって動かなくなったりしたんですよね。(笑)
猫を離してもすぐにまた乗っかっていくんで機能しなくて。なのですぐに売りましたよ。そしたら7万円ぐらいで売れましたからね。
―― なるほど。確かに、その判断の早さが損失の削減につながるということですよね。
武永:それから1週間ぐらいしたら、ルンバの新シリーズが出たんですよね。それが出たらたぶん価値がなくなっていたんで、危なかったなぁって思いましたよ。最近それで、手放してよかったということがありましたね。10万円だったのに3回しか使いませんでしたよ。(笑)

ビックリマンシールがビジネスアイデアのルーツ

―― ビックリマンシールがビジネスアイデアのルーツだっていうお話を伺ったんですが、詳しくお聞かせ頂けますか。

武永:ビジネスのルーツですねぇ。ビックリマンシールは売り買いはしていなくて交換なんですが。
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いまのオークファンにすごく近いんですけど、友達に何のシールを持っているか、ノートに書きながら聞いて回ったんですよ。
横軸に人の名前書いて、縦軸にシールの種類を書いて、何枚持っているかを正の字で書いていくわけです。そうすると、誰が何枚持っているかわかるわけですよね。
で、かぶっているシールが結構あって、例えば同じシールを3枚持っている人がいっぱい居たんです。一方で、他の人に聞くとそのシールを持っていなかったりするんですよね。
その人が持っているコレクション全部書き出した後に、持っていないシールを他の人からもらってきて「全部あげるから、ダブっているやつ全部くれよ」っていうことを繰り返していくと、自分に元本が残るんですよね。
自分にどんどんどんどんシールが貯まっていて、そうなるともう胴元ですよね。なので、1回もチョコレートを買ったことがないんですよ。
―― 当時はおいくつだったのですか?
武永:当時小学生2年生ぐらいですね。
―― 小学2年生でそんな発想するのはすごいですね。(笑)
武永:実家が商売やっていたんで。(笑)
隣町の中学生が家に来たこともありましたからね。「噂に聞いたんだけど、どうやってそんなに集めたの」って。
そういう感じでブローカーみたいなことをやっていました。

中学生時代にはゲームソフトに

中学生になったら、今度はそれがゲームソフトになって、この時はもっとお金儲けをしたいと思ったので、ビックリマンのときのAさん、BさんっていうのをA店、B店という形に名前を変えて、今度は各店舗がどういうゲームを売っているかっていうのを確認していくわけです。
1個1個書いていくとなると面倒なんですけど、当時FAXがあったので電話して「僕ソフトめちゃくちゃ持っているんで売りたいんですけど、中古の買取相場表ってありますか?」って聞いたらFAX送ってきてくれたんですよ。それを壁にバンバン貼っていくと、買取表が並ぶわけです。
一方で、チラシとかに売値が載っていますよね。ファイナルファンタジーいくらとか、スーパーマリオいくらとか。これも壁に貼ると、ある店舗のチラシで大特価って書いてあるものよりも、他の店舗の買取価格の方が高かったりするわけなんですよね。
だからもう、チラシの大特価みたら、全部ほかの店の買取価格を見れば、結構な確立で高く買い取ってくれるので、安いものを買って、別のお店で売るみたいなことをやっていました。当時は月1万5千円ぐらい儲かっていましたね。

―― そういうところで、規模がどんどん拡大していって今に至っているんですね。

武永:そうですねぇ。
それを生業にしようとは思っていなかったんですけど、結果的にそうなりました。
ビジネスってどこで自分が興味を惹かれるかじゃないですか。例えば僕においしい飲食の話が来て「レストランやってみないか?」って言われても、たぶん僕はそのチャンスを掴んでないはずなんですよね。わからないから。
それこそ、一緒に家庭教師の派遣の仕事をやろうと誘われたんですけど、のらなかったんですよね。家庭教師に興味がなかったので。
僕はオークションに触れたときに、俺だったらこれやりたいっていうのがあったので、いまがあるんですけど、たぶん他の人はネットオークションやったことある人でも商売にしようとは思わないですよね。そういう感度の違いなのかなぁっていう気がしますね。アンテナというか。

―― 最初にネットオークションが出てきたときはどんな印象だったんですか?

武永:最初は怪しい、大丈夫なのかなって思ったので、いくつか買ってみたんですよ。
あまり害のなさそうな本とかを買ったら、意外とみなさんちゃんとしていて、千円、2千円で騙してもしょうがないですよね。意外に買いやすいし、当時メールでやりとりしていましたけど、みなさんすごくいい人だったので、今度は自分が売ってみようかなって感じで、パソコン売ったんですね。これがきっかけですね。
僕が中古店に持って言ったときに、そのパソコンが4万円って言われたんですけど、普通に考えたらオークションって個人間取引なんで、業者が入っていないから、6万円か7万円になるんじゃないかなぁ、と思って売ったんですよ。
この時は情報がなかったんですけど、いわゆる中抜きというかですね、中間マージンを取られない方法を試してみたら、びっくりするぐらい高く売れたので、これ以降すごく興味持っちゃって、いろんな人から商品預かって売ったりしていましたね。

オークファンの今後の展開

オークファンは2013年4月25日に東証マザーズへ新規上場しており、1年を経過したところだ。
現在の状況を尋ねたところ、武永氏は「上場までがすごく大変だったので、気分的には2、3年前に戻った感じがします」と述べた。上場1年前ぐらいは、上場に向けた準備で大変だったようで、現在はちょうど落ち着いてきていて「攻められる体制になってきている」という。そんなオークファンのこれからの展開を伺った。

―― 今後のオークファンの展開を聞かせていただけますか。

武永:オークファンのメディアでいくと、まだまだ世の中に対して価値を提供できていなくて、いま一部の売り手の人に使われていますけど、もっと売ったり買ったりする普通の人に対して価値を提供したいと思っています。いわゆる世の中の「How much」ですよね。
「How much」のニーズに対して、真正面から応えられるメディアってまだないんですよ。
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「What」はWikipediaがあって、WhereだとGoogle Mapとかゼンリン地図とかがあるんじゃないですか。乗換案内もあったりとか。
あと、最近重要なのは「How」っていう「どうしたらいんだっけ?」っていうものに対しては、nanapiとか、OKWaveとか、Yahoo!知恵袋があるのでいいんですけど、「How much」っていうのは、まだまだなんですよね。
価格.comも「How much」に強いんですけど、彼らって全部の商品が載っているわけじゃないんですよ。
最新の製品とかは載っていますけど、昔の古いレコードとかは出てこないじゃないですか。彼らは「How much」というよりは、クチコミに対して強いので、あれはあれでいいと思うんですけど、「How much」に応えるサイトはウチだろうと思っていて、そこに関しては秘策があるんです。
ある商品の過去の値段推移と、これからの1年後の価格予想を全部出したりとか、いろんなサイトのレビューをひっぱってきて、うちが独自に本当のレビューは5点中何点なのかを評価したりだとか、せっかくいろんなデータを持っていますから、それを駆使して、売る人にとっても買う人にとっても、正確なデータを出したいっていうのがいまの課題ではありますね。
うちのサイトをチェックしてもらって、例えばですが、クリスタルガイザーはいまここで買ったほうが良いのか、もしくはAmazonで買ったほうが良いのか、逆にクリスタルガイザーをたくさん持っているショップさんはどこでいつ売ったら一番売れるんだってことがわかったりすると、非常に価値があると思っています。
それと、どこまでいってもデータ会社なので、大手企業のニーズはすごく高まっています。これは2つニーズがあって、1つはウチのデータが欲しいというケースですね。
マーケティングに使いたいというケースと、もう1つは大手の家電量販店さんとかもそうなんですけど、彼らが持っているデータをうまく使えていないんですよ。
例えば、ポイントキャンペーンをやったらお客さんがすごく来たんだけど、それが普通と比べて「どれぐらい来て、何を買っていって、どれぐらい効果があったのか」っていうのが把握できないまま毎回ポイントキャンペーンをやっているので、実はすごく損していたりするんですね。
そういうところをウチの培ったノウハウで最適化して欲しいと、データを元にした売上アップ、コスト削減ですよね。そこのオーダーっていうのは、結構最近たくさん頂いているので、これはこれでもう活動の幅をインターネットだけから、いわゆるオムニチャネルというか、リアルまで含めた最適化というところに斬り込んでいきたいと思っています。

―― ありがとうございました。

編集後記

幼少期の頃から、情報を整理して、それを元にした取引を行っていたというのには驚かされた。
オークファンは、「オークション統計ページ(仮)」という個人が運営していたサイトを武永氏が譲り受け運営を開始した経緯があるのだが、こういった経験のある武永氏だからこそ、サービスの価値を誰よりも理解し、ここまで大きなサービスへと成長させることができたのかもしれない。
中古市場への関心が高まる中、今後は買い手から売り手に回るユーザーの増加も期待できそうだ。買い手と売り手には大きな敷居があるのも事実だが、武永氏が言うように、まずは自分の持ち物の価値を把握できる人が増えていけば、売り手の増加へとつながっていきそうだ。
データ活用への注目が日に日に増す中、オークファンが所持する10年分のデータがどのように活用されていくのかも楽しみにしつつ、今後の展開に注目していきたい。


株式会社オークファン
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株式会社オークファン メディア掲載情報
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aucfan.com(オークファンドットコム)
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イイヅカ アキラ
ST編集長。Web制作会社にデザイナー、ディレクターとして従事後、フリーを経て、現在は株式会社プレイドに所属。

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