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【連載】2014年のEC展望(5):進む物流改革

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2014年はEC業界でどのような動きが活発になるかを探る「2014年のEC展望」の第5回。特集の最後となる今回は「進む物流改革」を取りあげる。

2014年にただちに大きな動きがあるということではないかもしれないが、2014年は「物流改革」が大きく進行する1年になるかもしれない。
利用者視点で考えれば、現在最も物流面で充実したサービスを展開しているサービスといえばAmazonになるだろう。Amazonでは大半の商品で当日配送を実現しており、一部地域を除く全国に向けて迅速な配送を行っている。在庫を自社で管理し、多様な商品をAmazonが直接配送しているのも他社のモールとの差別化になっている。
Amazonは、千葉県市川市や大阪府堺市などの12拠点のFC(倉庫および配送センター)を備え、多くの商品の迅速な発送を実現しているが、2013年には神奈川県小田原市に約6万坪となる国内最大の大型拠点を本格稼働させており、新たに静岡県を当日配送可能エリアにするなど、サービスの向上に余念がない。
インターネット専業でAmazonで対抗するところといえば、楽天市場とYahoo!ショッピングがまずあげられるが、オムニチャネル戦略を推進するリアル店舗がメインの企業の動きも活発だ。

セブン&アイとヨドバシカメラによるリアル店舗を活かした動き

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その2社はいずれもリアル店舗をメインに展開してきたセブン&アイとヨドバシカメラだ。
セブン&アイはオムニチャネル戦略を経営の重要課題に掲げており、「あらゆる業態の商品」を「あらゆるチャネル」で購入できるサービスの提供を目指しているが、全国で約1万6千店舗を展開するセブン・イレブンの店舗網を活かし、ネットと融合したサービス提供に取り組む。
例えば、セブンネットショッピングでの買い物を店頭受取りにすれば送料を無料にするなど、既存の配送網があるからこそ実現できるサービスを展開している。
さらに具体的な動きを見せているのがヨドバシカメラだ。
ヨドバシカメラは、一部の地域で展開している即日配送サービスを2018年末までに全国の主要都市に広げる。この為に三重県や北海道、九州などに物流拠点を新設し、店舗網が手薄な地域をカバーする形で実現するようだ。
さらに、ヨドバシカメラはネットで注文した商品を24時間店頭で受け取れるサービスを2014年1月から大阪で開始した。3月には東京でもスタートする予定で、利用者に新たな利便性を提供するとともに、2014年は商品のラインナップを一気に拡充し攻勢をかける計画だ。
いずれもリアル店舗網を活かしたサービス提供による差別化を狙ったもので、取扱商品数をどんどん拡大させることで優位なポジションを築こうとしている。

楽天、ヤフーも「一元配送」が可能に?

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先日の報道によると、楽天は2月から楽天市場の代金決済を全て自社で引き受け、店舗を横断して一括で決済が可能になる方式になるようだ。いままでは楽天市場に出店する店舗ごとに決済が必要だったのが、一回の決済で複数の店舗の商品を購入することができるようになる。
楽天、店舗を横断して一括で決済可能に ー 全品を自社決済
このシステムの延長線上にはやはり物流の一括配送があるだろう。楽天は現在「楽天スーパーロジ」という配送代行サービスを販売業者向けに展開しているが、将来的には消費者が買った商品を受け取りたい日時に一回でまとめて配送できるよう、配送パートナー企業と連携して全国主要都市への当日配送、おまとめ配送などを実現していく計画だ。
ヤフーは2012年に資本業務提携を結んだアスクルと共同で運営するLOHACOで、一括配送を積極的に展開している。LOHACOでは無印良品やルピシアなどの商品をまとめて注文し、最短で当日に配送するサービスを提供している。
当然ながら、Yahoo!ショッピングにも同様の仕組みを取り入れ、一括決済や一括配送のサービスを提供することになるだろう。
モールが在庫を所持するようになれば、複数のモールを利用する店舗にとっては「どこに在庫を置くか」という問題が浮上する。いわば在庫の奪い合いになる側面も考えられる。
店舗にとっては在庫を抱えるリスクを最低限にしたいため、すべてのモールに均等に商品を配置するのはそう簡単なことではないからだ。
ZOZOTOWNなどのモールを運営するスタートトゥデイは、在庫を自社で管理し出荷する体制を整えているが、在庫の欠品による機会損失を重要な課題と捉えている。
スタートトゥデイの調査によると、2013年度の通期での機会損失は400〜500億円にのぼると見られているが、その一方で店舗には在庫があるケースが6〜7割ほどあるという。店舗の協力をなかなか得られない現状があるようだが、店舗近くに引き上げ拠点を置くなど、対策を検討中とのことだ。
モールにとってはいかに自社で素早く発送できる体制を整えることができるかが、重要なポイントとなってくるのは間違いないだろう。特にこれから体制を整える楽天市場とYahoo!ショッピングにとっては、いかに先手をとって店舗に在庫を置いてもらうかの熾烈な争奪戦が繰り広げられることになるかもしれない。

配送業者の改革も進む

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ヤマト運輸は2016年から東京ー大阪間などの大都市圏での当日配送サービスを始める。佐川急便も東京ー大阪間に限られている当日配送網を名古屋などのその他の大都市圏に広げる計画だ。
これにより大都市間の配送が早くなれば、通販事業者にとっては物流拠点の場所に関わらず、素早い配送サービスが実現できるようになる。
佐川急便は負荷の問題から先日Amazonとの取引を停止し、現在Amazonの配送はヤマト運輸に集中する形となっているが、モールと配送業者の連携がいかにうまく稼働するかに関しても、今後のサービスの質に関わってくるところになるだろう。
さらにヤマトグループは、ネット通販を後払い可能にするサービスも開始し、新しい決済手段を展開する。
ヤマト、ネット通販で商品確認後の支払いを可能にする「クロネコ代金後払いサービス」のテスト販売を開始
こういった配送業者の動きは、通販業者にとっても重要なものとなるだろう。

Amazonが挑戦するさらなる進化

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Amazonは無人航空機による配達を実現するためのサービス「Prime Air」を発表した。注文を受けてから30分以内に無人の航空機により配送するもので、技術的にはすでに実現が可能な段階まできているようだ。
また、Amazonは先日「予測出荷」の特許を取得したことでも話題になった。この特許はAmazonを利用するユーザーの行動パターンなどから購入するであろう商品を予測し、注文前に商品を出荷してしまうというもので、より迅速な配送を実現するためのシステムだ。
実現するとすれば、自宅まで勝手に届けられるのではなく、最寄りの配送所まで届けられ、実際に注文が入ったら配達するといった流れになるだろう。
既存の資産を活かすリアル店舗の存在と、さらなる高速化を図るネットショップ、そしてテクノロジーの進化による物流革命。今後3年間は様々な動きが見られそうだ。

イイヅカ アキラ
ST編集長。Web制作会社にデザイナー、ディレクターとして従事後、フリーを経て、現在は株式会社プレイドに所属。

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