ワールドの大規模な店舗閉鎖、イトキンの複数ブランド終了など、大手アパレルメーカーの規模縮小に関するニュースが続いています。
アメリカでも大手百貨店メイシーズ、世界最大のスーパーマーケットチェーンウォルマート、人気アパレルブランドギャップなど、名だたる大手小売やアパレルメーカーが店舗閉鎖に着手しており、店舗の閉鎖・規模の縮小は世界的な流れと言えそうです。
その一因として考えられるのは、ECやCtoC取引を中心とした消費者の購買行動の変化。
リアル店舗という資産を「商品を販売する場」としてだけではなく、より多角的な視点で捉え、店舗戦略全体を見直すことが、今後の小売業界に必要とされています。
そこで今回はリアル店舗の役割を再定義し、新しい価値を生み出す事例から、新たな店舗戦略の可能性について探ります。
商業不動産の契約期間は短縮トレンド
まず出店戦略に欠かせない商業不動産の動きですが、今後賃貸の契約期間は短縮トレンドとなることが予想されます。
下記はイギリスで調査された、商業不動産の平均契約期間の推移ですが、全体的に短縮傾向にある中で、特に小売向け不動産(Retail)が10年の間で、ほぼ半減という急激な変化を見せています。
出典:statista
日本とイギリスでは不動産市場も商慣習も異なるため、多少のズレは生じるものの、先進国で都市への一極集中が進んでいるという共通点からも、大きなトレンドとしては、東京も同様に契約期間が短くなっていくことが予想されます。
景気のあおりを特に受けやすい小売業者にとって、固定費負担を減らし、身軽な経営を実現するためにも、できるだけ短い契約期間で借りたいというマインドが生じる結果ではないでしょうか。
また東京の地価を見ても、中央区・港区・渋谷区といった、商業不動産が集積するエリアは軒並み上昇傾向にあります。
出典:土地代データ
銀座や渋谷といった人気エリアを中心に、2020年の東京オリンピックに向けて、商業施設の新規オープンや再開発が相次ぐこともあり、当面は地価の上昇トレンドが続きそうです。
地価が上昇し続ける都心に店舗を構えるブランドは、今後ますます店舗単体の売上と土地代のコストパフォーマンスが合わなくなり、撤退を余儀なくされるところもさらに増えることが予想されます。
とはいえ地価が比較的安い郊外に出店しても、都心一極集中が続く関東圏ではターゲットとなる若年層はほとんど東京にでていってしまうか、オンラインで買い物を済ませてしまいます。
このような環境の中で、長期契約のリスクを負うことなく購買意欲の高い顧客層に効果的にアプローチできるポップアップストアの人気の高まりは必然といえるでしょう。
これからの店舗戦略は「役割の明確化」がキーに
しかし、ある程度の規模のブランドになってくると、商品のメンテナンスやブランドイメージの醸成といった点からも、ポップアップストアだけではなく、常設店舗も必要になります。
特に高額品になればなるほど、いつでもそこに行けば専門のスタッフがいてじっくり相談できるという環境が求められるでしょう。
ただ、この時に安易に常設店舗による拡大路線をとってしまうと、店舗マネジメントがうまくいかない、店舗単体での採算性が取れないといった状況に陥りやすくなってしまいます。
そういったトレンドをうまくキャッチして、新しい出店戦略をとっている事例が“色”を切り口にしたセレクトショップとして人気を集める「IROZA(イロザ)」です。
「IROZA」は2016年2月に、東急百貨店東横店西館1F SHIBUYA スクランブルIにフラッグシップストアをオープン。
ECの売上も堅調で、全国の商業施設から引き合いのある「IROZA」ですが、しばらくは旗艦店以外の常設店舗は置かずに、旗艦店でアプローチできない地方などのエリアでは、ポップアップストアを中心に展開する予定だと言います。
ある程度ブランドや店舗が軌道に乗ってくると、店舗拡大を目指したくなるものですが、常設店舗が増えることで人の管理をはじめとする店舗マネジメントやクオリティコントロールの負荷が増大してしまうという点は、実感のある方も多いのではないでしょうか。
少ないリソースで旗艦店のブランド体験向上へ注力し、地方やEC利用率の低いF3層(50歳以上の女性)には、期間を限定してポップアップストアでアプローチして認知度を上げる。
このように常設店舗とポップアップストアの役割を明確にした店舗戦略が、彼らの強みのひとつでもあります。(より詳しいレポート)
同じように役割を明確にした店舗戦略をとっているのが、メンズ靴下専門ブランド「SOC TOKYO(ソックトーキョー)」。
交通量の多い渋谷の東急百貨店内に旗艦店がある「IROZA」とは打って変わって、「SOC TOKYO」の本店は都心から少し離れた世田谷区の三宿に本店を構えています。
人が頻繁に往来する立地ではないものの、閑静な住宅街に囲まれた本店はアロマの香りに包まれた穏やかな時間が流れ、思わず長居してしまいそうな心地よい空間。
商業施設にもポップアップストアというかたちで積極的に出店している「SOC TOKYO」では、商業施設は認知度を高めるため、本店はエンゲージメントを高めるため、と明確な役割分担がなされています。
実際、商業施設のポップアップストアでブランドを知ったお客様が、じっくり買い物をするために本店を訪れ、スタッフと会話を楽しみながら買い物をしていかれることも多々あるといいます。(より詳しいレポート)
これまでは「認知する」「関心をもつ」「購入する」といった一連の行動がすべて常設店舗で行われ、その売上がすべてでした。
しかしECの売上高も年々大きくなり「購入する」という機能が徐々にオンラインにも拡大しはじめている今、リアル店舗の顧客接点としての機能に注目が集まり始めています。
つまり今後は店舗単体での売上だけを意識するのではなく、それぞれの店舗がどのように顧客の生活の中に組み込まれ、またどのようなブランド体験を与えるのかを意識することがこれからの店舗戦略に必要な考え方です。
今出店しようとしている店舗は認知を拡大するためなのか、顧客の関心を高めるためなのかを今一度見直してみてはいかがでしょうか。